夏のキャンプ等を中止しようか悩んでいる自治体の皆様へ 〜分かりやすい旅行業法〜
夏休みに自治体等の主催で予定していた子供向けのキャンプ等が、旅行業法に抵触する恐れがある、または抵触しているという理由から、続々と中止に追い込まれているというニュースを最近よく目にします。
せっかく楽しみにしていた子どもたちや、キャンプ等で一皮むけた成長を楽しみにしていた保護者の方々にとってはとても残念なニュースなのではないでしょうか。
そこで、今後このようなことがないように自治体等の方々にご参考にしていただきたく、旅行業法について簡単にまとめました。
- 旅行業とは?
旅行業の定義は旅行業法に以下のように定められています。
旅行業法 第一章 総則
(定義)第二条
この法律で「旅行業」とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業(専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。)をいう。
一 旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス(以下「運送等サービス」という。)の内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を、旅行者の募集のためにあらかじめ、又は旅行者からの依頼により作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為
二 前号に掲げる行為に付随して、運送及び宿泊のサービス以外の旅行に関するサービス(以下「運送等関連サービス」という。)を旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等関連サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等関連サービスを提供する者との間で締結する行為
三 旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
四 運送等サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為
五 他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等サービスを提供する行為
六 前三号に掲げる行為に付随して、旅行者のため、運送等関連サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
七 第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、運送等関連サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等関連サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為
八 第一号及び第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、旅行者の案内、旅券の受給のための行政庁等に対する手続の代行その他旅行者の便宜となるサービスを提供する行為
九 旅行に関する相談に応ずる行為
- 今回のケースに照らし合わせて考える
すなわち旅行業とは、①報酬を得て ②一定の行為を ③事業として 行うことを指します。
では、この3つを一つずつ今回のケースと照らし合わせながら見てみたいと思います。
① 報酬を得て とは?
「報酬を得て」と言われると、「利益を得て」と考えてしまう場合が多いかと思います。報道によると、子どもたちに喜んでもらうためにいくらか主催団体側(自治体等)で負担までし、そのうえで料金設定を行ったケースもあるという話でした。すなわち、「利益を得て」には該当しないからOKと思われがちです。
しかし、ここで言うところの「報酬」とは「利益」とイコールではありません。
そもそも、今回のケースではほとんどが参加費お一人あたり○○○円(含まれるもの:貸切バス代、宿泊代、昼食代)と言った表示をされています。このような包括料金での提示の場合、それぞれの単価が見えないので、主催団体が利益を得ているのかは参加者にとって分かりません。それは、旅行会社が主催する「ハワイ6日間 お一人あたり100,000円」というツアーにおいて、その中に旅行会社の利益がいくら含まれているのかが見えないのと一緒です。
従って、参加者から参加費を一旦収受するということだけでも、「報酬を得て」と認められることになります。
② 一定の行為を とは?
大前提として、「運送または宿泊」が関連する企画において代理・媒介・取次を行うことを指します。運送か宿泊のいずれか一方でも含まれていれば、旅行の扱いということになります。従って、運送も宿泊も無い企画であれば該当しないということになります。
今回のケースでは、ほとんどが、貸切バスなどで目的地まで出かけ、現地での宿泊を行っているように見受けられます。その場合は、「運送・宿泊」のいずれも参加者を代理して主催団体が運送機関や宿泊機関と契約を行っていますので、旅行業に該当するということになります。
その他にも手続代行や旅行の相談を受ける行為なども旅行業とみなされますが、そちらは今回の事例に直接関係がないので割愛します。
【旅行業に該当しないケース】
(1)運送または宿泊が含まれていない場合
例)現地集合し、BBQやイベントなどを行い(昼食も含む)、現地解散する日帰りの企画
(2)主催団体が自ら所有する運送または宿泊のサービスを提供する場合
例)バス会社が行う日帰りバスツアー、ホテルが行うゴルフパックの販売
上記(2)より、例えば自治体の主催で、当該自治体が所有するバスを使用し、同じく当該自治体が所有するキャンプ場でキャンプを行う場合などは、旅行業とはみなされないということになります。
③ 事業として とは?
原則としては「反復継続して行う場合」を事業としてみなすとなっています。
しかし、不特定多数の方々に向け募集行為を行っている場合は、反復継続が認められなくても事業としてみなされることがほとんどです。
【旅行業として該当しないケース】
(3)特定のグループ内での募集行為
例)社員旅行の幹事が旅行会社を通さずに企画・手配を行い、会社の社員向けに募集を行った場合
例)学校の生徒向けに研修旅行の企画・手配を学校が行い、生徒に向けて募集を行った場合
今回のような自治体主催のキャンプなどの場合、参加資格は市民や区民などの「住民」となり、上記(3)の特定のグループ内(クローズドマーケット)と捉えられなくもありません。しかし、ここでいう特定のグループとは、日常的な接触があり、互いに顔見知りかどうかが基準になっています。
もちろん社員数の多い会社や生徒数の多い学校などは全員が顔見知りではない可能性もありますが、市民や区民などの「住民」となると、全員が顔見知りである可能性は極端に低いため、特定のグループ内には該当しないという判断になっています。
また、募集チラシなどの募集要項についても、学校内や会社内での募集の場合は、当該の生徒や社員に向けて配られますので、一般の方々の目に触れる機会はほとんどありませんが、自治体主催となると、誰でも出入りのできる庁舎に置いてあったり、誰でも見ることのできるホームページに掲載されていたりと、不特定多数の人の目に触れることになってしまうのも上記(3)に該当しない理由のひとつに挙げられると考えます。
- ではどうすればよいか
前述を踏まえて、旅行業登録のない自治体などの団体が主催し、ツアーを行う場合は以下のような方法が考えられます。
① 旅行業者にすべてを委託する
誰にでも思いつく方法ですが、これが一番手っ取り早いです。ツアーの計画段階から旅行業者を巻き込み、企画・手配・集金・支払い等をすべて旅行業者にやってもらいます。
[デメリット]
「旅行業者を間に入れると値段が高くなってしまう」と言ったお声もよく聞きますが、それにはしっかりとした理由があります。その理由については後述します。
② 該当部分(運送・宿泊)のみを旅行業者に委託し、イベント部分は主催団体で行う
旅行業者に委託する場合、当然内容によって値段が変わってきます。できるだけ金額を下げたいのであれば、旅行業者の取り扱う部分を、旅行業法に関連する部分のみに制限し、それ以外のイベントや食事の部分は主催団体側で企画・手配を行うのも方法のひとつです。
その場合、参加者が申込み・支払いをするのは、旅行部分は旅行業者へ、イベント部分は主催団体へとなります。(旅行業者へ一括で行うことも可能ですが、その場合、①とほぼ同じ条件となりメリットがありません。)
[デメリット]
参加者が申し込みや支払いを別々にしなければならないため面倒が生じます。
③ 現地集合・現地解散・日帰りにする
④ 参加費の収受をせずに、参加者からサービス提供者(運送・宿泊)へ直接支払いをしてもらう
[デメリット]
③④は現実的ではない
- なぜ旅行業は登録が必要か?
そもそもなぜ旅行を取り扱うには旅行業の登録が必要なのでしょうか。答えは簡単で、「旅行者の安全を守るため」です。
旅行業者を通すことによって金額が上がってしまうというのは最もですが、それには理由があります。旅行業者は旅行中に参加者の安全を保証する責任があります。まずは、バス会社が事故を起こさないように、宿泊施設が火事や食中毒などを起こさないように、安全点検や運転者・従業員の管理などをしっかりと行っているかをチェックし、お客様に安心してお勧めのできるバス会社や宿泊施設等を含めた旅行を提供しています。
それでも万が一に備えて、企画旅行の場合は、特別補償という、旅行業者の責任の有無に問わず、企画旅行参加中に急激かつ偶然な外来事故で、参加者がその生命、身体または携帯品に被った一定の損害について、あらかじめ定める額の保証金及び見舞金を支払うことが義務付けられています。(お客様からの指定のバス会社や宿泊施設の場合でも特別補償は対象となります。)
- 旅行業者を通すとなぜ高いか
旅行業者を通さずに旅行をすることにより、万が一参加者に不幸があった場合、主催団体はどこまで責任を取ることができるのでしょうか。
安全安心は無料のサービスではないということです。
旅行業者を通すことにより代金は上がってしまいますが、その上がった分の代金で安全安心を買っていると思うことが重要です。
- まとめ
とはいえ、安全安心にどこまで力を入れているのか、安全安心にどれだけの価格を設定しているのかは旅行業者によって異なります。
今回の事態をきっかけに、大切な子どもたちを預かるイベントに相応しい旅行業者はどこなのかを、金額面も踏まえてしっかりと選定する必要があると思っていただければ幸いです。
※ 具体的な事例や、それでも旅行業者を通さないで実施したいなどのご相談を無料で承ります。お気軽にお問い合わせください。
株式会社エデューズ 担当:井野 03-6435-6425
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