旅行サービス手配業と教育旅行 〜安全安心な教育旅行の実施に向けて〜

旅行業法の改正により、平成30年1月4日より日本国内においてランドオペレーター業務を行うには都道府県知事の「旅行サービス手配業」の登録が必要になりました。
http://www.mlit.go.jp/common/001209429.pdf

インバウンドの増加に伴い、外国からの旅行者の受け入れにあたって安全性や旅行の質を保つための業法改正というイメージが先行していますが、実はこの新制度は教育旅行においても無関係ではありません。
民泊などの分宿型の教育旅行が人気を博しているなか、民泊家庭や体験事業者など地域のサービス提供者と旅行会社の間に入りコーディネーター業務を行う観光協会などの団体が多い現状において、新しく設定された「旅行サービス手配業」はどのように考えていけばよいのでしょうか。

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◆ 旅行サービス手配業とは

旅行サービス手配業とは、「報酬を得て、旅行業者(外国の旅行業者を含む)の依頼を受けて、旅行者に対する運送等サービス又は運送等関連サービスの提供について、これらのサービスを提供するものとの間で、代理契約・媒介・取次(取引の公正、旅行の安全及び旅行者の利便の確保に支障を及ぼすおそれがないものとして国土交通省令で定めるものを除く)を行う者。」 とされています。

「運送等サービス」とは運送又は宿泊のサービスを指し、「運送等関連サービス」とは通訳案内士・免税店等の運送及び宿泊のサービス以外の旅行に関するサービスを指しています。
すなわち、直接の旅行者からではなく、旅行業者からの依頼を受けて、観光バスや航空券などの運送サービスや、ホテル・旅館などの宿泊施設、レストラン、土産店、ガイド等を手配する業者を旅行サービス手配業と定めたわけです。

意外かと思われるかもしれませんが、そもそもこのような業務を行っていたいわゆる「ランドオペレーター」と呼ばれる業者は、旅行業などの登録が一切必要ではありませんでした。なぜなら旅行契約とは実際に旅行をする旅行者と旅行業者との間に締結されるものであり、ランドオペレーターは旅行者との契約行為は行われず、あくまでも旅行業者との契約のため、旅行者保護を目的とした旅行業法の対象ではないと考えられていたからです。しかし、記憶にも新しい平成28年1月の軽井沢スキーバス事故をきっかけとして、ランドオペレーター業務を行う事業者に対しても登録義務を課すという意味でこの制度が創設されました。

◆ 軽井沢スキーバス事故の実態

平成28年1月15日AM1:55頃、長野県軽井沢町の国道18号線碓氷バイバス入山峠付近において、貸切バスがガードレールを突き破り、道路右側に転落、乗員乗客15名が死亡、乗客26名が重軽傷を負った軽井沢スキーバス事故の実態とはどのようなものだったのでしょうか。

このツアーの催行者であった旅行業者A社は直接バス会社B社に対してバスの手配を行ったわけではなく、中間業者(ランドオペレーター)のバス手配会社C社を通して手配を行っていたのです。事故の後、旅行会社A社は旅行業法に基づき登録取消、バス会社B社は道路運送法違反により許可取消といった行政処分を受けたにも関わらず、中間業者C社は該当する法令がなく処分無しとなりました。
本来であれば、バス会社の管理体制など安全安心をしっかりとチェックしたうえで、旅行業者へのサービスを仲介しなければならないといった重要な役割を担うべき中間業者が、業務を怠っていたとも捉えられる状況にも関わらず、中間業者を行政処分する法令が無いと言った問題が明るみになった痛ましい事故でした。

その反省を活かして制定されたのがこの旅行サービス手配業の登録制度です。

この制度では、不実告知、債務履行の遅延、他の法令に違反する行為のあっせん等を禁止行為として定め、具体的に、道路運送法に基づく下限割れの運賃による運送の提供に関与することといった事例を示しています。
また、登録を受けずに旅行サービス手配業を営んだものには、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はその両方が課せられるとされています。

◆ 教育旅行における関係性

近年教育旅行の誘致に積極的に取り組む自治体が増えてきています。地域の魅力を発揮し、宿泊や体験をひとまとめにして、観光協会やNPO法人、民間企業等がワンストップで窓口となり、教育旅行を取り扱う旅行会社に対して地域として積極的に売り込みをしています。
なかでも地域の民家に宿泊する民泊家業体験は圧倒的な人気を博し、その地域の宿泊先となる民家を取りまとめてコーディネーター業務を行っている団体は全国に多数存在しています。

では、このコーディネーター業務を行っている団体(観光協会やNPO法人、民間企業)は旅行サービス手配業に登録するべきなのでしょうか。
前述の通り旅行サービス手配業の登録をするべき業務とは、「報酬を得て、旅行業者の依頼を受けて行う、運送又は宿泊の手配」となっています。
これまでは旅行者(学校、生徒)は旅行会社と旅行契約を結び、コーディネーター業務を行っている団体はあくまでも旅行会社との契約だったので、ランドオペレーターという位置づけのため、特別な登録の義務はありませんでしたが、この制度ができたことにより、複数の民家を代理して旅行会社との契約を取次ぐといった性質上、旅行サービス手配業の登録が必要になったと考えられます。報酬を得てとありますので、ただ取次を行うだけで、旅行会社からの支払の収受は各民家で行うということであれば、もちろんこの限りではありません。

ただ、第1種、第2種、第3種、地域限定に限らず旅行業登録を済ませている団体は新たに旅行サービス手配業に登録する必要はありませんので、すでに旅行業登録済みの団体については問題ありません。

◆ 教育旅行における民泊家業体験の実態

全国に広がっている民泊家業体験(呼び方は様々)ですが、最近の民泊新法の問題でもクローズアップされているように、宿泊所としての許可を取得していないにも関わらずお客さまを宿泊させて料金を収受するいわゆるグレー民泊と呼ばれる形態が以前は主流でした。
特に教育旅行においては、あくまでも家業体験として学校にサービスを提供しているため、収受するお金は宿泊料金ではなく体験料金であるという名目上、宿泊の許可を得ていなかったのです。

しかし、民泊問題が表面化していくにあたって、教育旅行という性質上、グレーのままで良いわけはなく、農家民宿という規制緩和された簡易宿所許可を取得して営業する地域が増えてきました。

それに対して、一部の都道府県では教育旅行の民泊に対してのガイドラインを定め、教育目的で農林魚家に宿泊をさせるケースにおいては、宿泊料とはみなさず、簡易宿所許可を取得せずとも営業を認めているといった実態もあります。

◆ 宿泊料と体験料

旅行サービス手配業の話に戻しますと、旅行サービス手配業が代理契約・媒介・取次を行う対象は運送や宿泊、土産店やガイドといったサービスとされているため、体験は含まれているのか微妙なところです。

もし体験が対象のサービスでないとすると、前述の教育旅行の民泊におけるガイドラインを定めている一部の都道府県でコーディネート業務を行っている団体は、旅行サービス手配業の取得の必要はなく、簡易宿所許可を得て活動をしている地域の団体は旅行サービス手配業を取得しなければならないと言ったことになります。同じ業務を行っているにもかかわらず、地域によっての不公平が生まれてきてしまいます。

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◆ 現状(沖縄の事例)

教育旅行の訪問地として絶大な人気を誇り、年間約44万人(約2,500校)の教育旅行を受け入れている沖縄では、民泊家業体験を望む学校が多く、約4割の学校が民泊を実施していると言われています。そのニーズに応えるため、民泊を受入れる地域は25団体を超え、民家数としては2,000軒近くも存在しています。その沖縄では旅行サービス手配業に対してどのような取り組みを行っているのでしょうか。

そもそも沖縄県では、前述のガイドラインのようなものは定められておらず、逆に教育旅行の家業体験においても宿泊を伴うものについては簡易宿所許可を取得するように明確な指針を定めています。
http://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/kankoshinko/yuchi/documents/shishin.pdf

従って、民泊のコーディネート業務を行っている団体においては、旅行サービス手配業への登録が必要として各団体への登録を促しています。
その結果、2018年3月末時点で39件の登録がされ、これは東京、大阪に続いて3番目に多い登録数となっています。※すでに旅行業登録を済ませている団体は除く
http://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/kankoseisaku/somu/interpretation/documents/ryokougyou-ryokousa-bisugyoumeibo.pdf

しかしながら全国的に見ると、前述のガイドラインを定めている都道府県をはじめ、それ以外の都道府県でも民泊家業体験や民宿分宿などのコーディネート業務を行っている団体の登録はまだまだ少ないのが現状です。

◆ まとめ

6月に施行される民泊新法も絡んで、教育旅行における民泊の位置づけにおいても今後様々な動きが出てくると思われます。しかし、都道府県で見解が異なることになると、該当する学校や生徒などの旅行者も教育旅行を取り扱う旅行業者も判断がつきにくくなってしまい、制度が有名無実化していく恐れがあります。

お金と労力をかけて簡易宿所許可を取得した民家や、同じく旅行サービス手配業を取得した団体がある一方で、見解の違いにより取得すること無く営業を続けている現状に対して、正直者が馬鹿をみることがないように徹底していく必要があります。
そして何よりも旅行者保護を目的とし安全安心のために設定された制度ということを理解したうえで判断をすることが重要であると考えます。

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