民泊の起こりと問題点6〜まとめ〜

まとめ

シェリングエコノミーという考え方は素晴らしく、今後も広がりを見せていくことが大いに期待できる新しいスタイルである。すでにAirbnbではリオオリンピックの公式サプライヤーとして決定し、オリンピック中に2万軒の宿泊施設を準備する予定としている。また、2014年のブラジルワールドカップの際は、10万人超の旅行者がAirbnbを利用したと言われている。

外国人観光客が増えている日本においても、東京都内のホテルの稼働率は約85%となり、慢性的にホテルが不足している現状がある。2020年の東京オリンピックに向けてこのホテル不足はさらに加速していくことが予想されている。

しかし、このような空き家ビジネスとしての民泊を、規制することなしに認めた場合、誰が泊まっているかが把握できないことによる治安の悪化や、外国人観光客が出入りすることによる資産価値の低下、火災、ゴミの分別など数々の不安や不満が出てくることは明白である。

また、学校行事の中でも最も大きなイベントである修学旅行は、大事な子供たちを学校が数日間預かるわけで、その間に事故やトラブルが無いように学校や旅行会社は努めなければならない。そのような大切なイベントが都道府県によって「グレーゾーン(農家民宿の許可を取ることなく)」のまま行われているという点についてもいささか疑問が残る。

「民泊」にも様々な種類があり、それぞれに良さや問題点があることを理解したうえで、規制が必要な部分はしっかりと規制をすることによって、それに関わるすべての人たちが納得し、気持ち良く利用できるよう整備が進むことを望む。

民泊の起こりと問題点5〜民泊の実態と種類〜

民泊の種類

これまでに書いてきたように、民泊は大きく分けて2つに分類されると考えられる。

  • 人との繋がりを重視したホームステイ型
  • 空き家問題やホテル不足を補う意味での空き家ビジネス型

この2つを比べてみると、貸し出すホスト側の目的も、利用するゲスト(お客様)の目的も、まったく性質が異なるものだと理解できるだろう。

Airbnbのアジア太平洋公共政策局長マイク・オーギル氏も、Airbnbに掲載されている宿泊形態は大きく分けて以下の3パターンがあると述べている。

1)ホスト不在の空き家を貸し出す

2)ホスト在住だが不在時(長期出張等)に貸し出す

3)ホスト在住の空き部屋を貸し出す

それぞれへの規制が必要

これらは、宿泊者にとって目的が全く異なっているものであり、1)や2)を希望する宿泊者は、ホテルに泊まるよりも安価で、ホテルが無い地域でホテル代わりにといった目的で、3)を希望する宿泊者は前述の教育旅行のケースと同様に人との触れ合いや交流を目的としていると考えられる。

すなわち、1)2)ではホテルや旅館といった正規の宿泊施設と競合になるが、3)ではそことは競合しないということになる。

したがって、厚生労働省と観光庁が開いている「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」ですでに話に上がっているように、これらをすべてひとくくりで考えるのではなく、それぞれのケースで法律と照らし合わせて考えていく必要があるという見解はもっともである。

しかしながら、1)2)だけ規制をすれば良いのかというとそうでもなく、3)のパターンは前述の通り農家民宿という許可を得ている施設(農林漁家)が、すでに多く存在しているわけで、ここで3)のパターンは許可がいらないということになってしまうと、すでに許可を取った農林漁家からは不満が出てくることだろう。

民泊の起こりと問題点4〜空き家ビジネスの出現〜

空き家ビジネスとしての民泊の台頭

このように、人との触れ合いや交流が重視されて広がりを見せてきた「民泊」だが、いつの間にかAirbnbなどのように、使っていない部屋をホテル代わりに貸し出す「空き家ビジネス」だけを「民泊」として言われるケースが多くなってきている。

「民泊」という言葉を調べてみると「民家に宿泊すること」と大辞林 第三版にはあるが、一方で、知恵蔵miniには「個人が住宅の空室などを用いて有料で宿泊を提供するサービスのこと。借り手のほとんどは外国人旅行者であり、貸し手(ホスト)たちは自分で宿泊料を決め、各自高級マンションから古い4畳半まで様々な部屋を提供している。2008年に米国で始まった旅行者とホストを結びつけるウェブサービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」が広めた宿泊形態で、同サイトには世界191カ国・地域の3万4000以上の都市のホストが登録している。14年には日本法人も発足し、15年8月現在、全国で約1万3000の部屋が登録されるまでになった。また、清掃や通訳派遣などホスト向けサービスを代行する企業も次々と設立されている。しかし旅館業法で必要な営業許可を得ていないホストが多いとみられ、日本政府が実態調査に乗り出している。」とある。

インターネットの普及と、シェアリングエコノミーという考え方の広がりのなかで、この「空き家ビジネス」としての民泊が旅館業法等に違反しているとして話題となり、今後の規制緩和などの動向が注目されているのである。

◆Airbnbの広がりの背景

すでにお気づきかと思うが、この「空き家ビジネス」としての民泊に対して、観光業界以上に注目を注いでいるのが不動産業界である。

築年数が経ち空室が増えているにもかかわらず、土地の固定資産税はあがり、利回りは下がる一方。そんな、不動産オーナーを悩ませている「賃貸アパート・マンションの空室率」の問題を解消する切り札として民泊を活用しようというのである。

大田区や大阪府での

このAirbnbに代表される民泊サービスの台頭により、国家戦略特区※で民泊に対する規制緩和が認められるようになったわけだが、これは、これ自体が法的な強制力があるわけではない。あくまでも各地域に民泊の規制緩和を認める権限を与えたに過ぎず、それぞれ該当の地域が条例化しなければ意味をなさないのである。

そのなかで、他地域に先駆けて条例化したのが大田区や大阪府で、注目を浴びているというわけである。その内容は通常簡易宿所としての登録をしなくても部屋の貸し出しを行えるといったものであり、その条件として、簡易宿所としての客室面積が33㎡以上といった規制が緩和されたり、フロントの設置の必要がなくなったりといったものである。

しかし、これには滞在日数が7日以上でなければならないといった条件が付いている。

※国家戦略特区(東京都、神奈川県、千葉県成田市、千葉市、愛知県、大阪府、兵庫県、京都府、広島県、愛媛県今治市、福岡市、北九州市、秋田県仙北市、宮城県仙台市)

民泊の起こりと問題点3〜教育旅行の現状〜

教育旅行(修学旅行宿泊研修等)における民泊の

伊江島の成功や、文科省のプロジェクトを受け、民泊は全国的に広がりを見せていくのだが、前述のような営業許可の問題も浮き彫りになってきた。

そこで、2003年から2005年にかけて規制緩和された「農家民宿(農林漁村体験民宿)」が少し遅れて注目を浴びてくることになる。

「農家民宿」とは、宿泊者に対して農林漁業体験を提供することなどの一定の条件を満たした農林漁家であれば、旅館業法や食品衛生法などの法律に定められた簡易宿所の許可条件に関わる規制が緩和されるのである。

(例:簡易宿所は客室面積が33㎡以上必要なのに対し、農家民宿は33㎡未満でも可能)

(例:簡易宿所は飲食物を提供する場合飲食店営業の許可が必要なのに対し、農家民宿は共同調理を条件に許可は不要)

これまで、「民家体験泊」という形態で、宿泊費としてではなく体験費として金銭を収受することにより、グレーゾーンだった「民泊」が、しっかり許可を取り「農家民宿」として真っ白で活動を始める地域が増えてきたのである。(しかし、すべての地域で「農家民宿」の許可を取ったわけではなく、現状でも「民家体験泊」の形態で民泊の受け入れをおこなっている地域もある。これについては、受け入れをおこなっている都道府県によっては「ガイドライン」というかたちで認めているケースも見られる。)

民泊と民宿の呼び方

「ん?ちょっと待てよ。その場合、民泊というよりも民宿泊なのでは?」

とお思いになる方もいらっしゃるだろう。

現実にはそうなのだが、前述の通り、民泊の目的は宿泊をする家の人と子供たちが人間的な交流・触れ合いを持てる少人数での宿泊形態であるため、便宜上、その目的を達成することのできる形態はそのまま民泊と呼び、十数人からの集団宿泊である民宿泊とは分けて呼んでいるのが現状である。

今でもこの修学旅行における民泊は、教育効果の高さが顕著に現れるといった点から、学校には絶大な人気があり、日本全国で人気のプログラムとなっている。

民泊の起こりと問題点2〜教育旅行による拡がり〜

伊江の民泊の始まり

年間170校、述べ宿泊者数30,000人を超える修学旅行の受け入れをおこなっている沖縄の伊江島はどのような経緯で民泊を始めたのだろう。

そこにはもちろん「村おこし」という目的があったのだが、それだけではない。

この伊江島には高校以上の学校が存在しないため、小中学校を卒業すると島の子供たちは、沖縄本島に下宿に出てしまう。したがって、若い世代がどんどんと島からいなくなり、高齢化していくという問題を抱えていたのである。

そういった理由から、純粋に子供達と触れ合うことの楽しさを求めてこの民泊は広がりを見せていく。
子供たちが使っていた空き部屋がすでにあり、高齢化していく島のおじい・おばあが子供達と触れ合い元気をもらう、また、一度島に来た子供達が、将来再び島に訪れるリピーターにつながり、移住定住のきっかけともなる。といった一石四鳥の効果を島に生み出し、2003年の発足時には3校、300名の受け入れにすぎなかったそれが、学校側が認める高い教育効果とも相まって、多くの学校が訪れ、島の一大産業へと繋がっていくのである。

民泊のがりと問題

2008年、農林水産省と文部科学省、総務省の連携事業として「農山漁村交流プロジェクト」が、子供たちの自立心や、思いやりの心、規範意識を育み、力強い成長を支える教育活動として、農山漁村での宿泊体験を推進することを目的として始まった。

これは、宿泊をする家の人と子供たちが、人間的な交流・触れ合いを持てる少人数での宿泊形態をイメージして文部科学省が発信をしたため、十数人以上が一箇所の施設に泊まる集団宿泊とは一線を画したプロジェクトであった。

これによりこれまでの民宿泊ではなく、民泊が広がりを見せていくのだが、当時の民泊(民家)は「民家体験泊」と呼ばれ、営業許可を取ることなく体験という位置付けでおこなっていたのである。

これに対して、ある都道府県では、営業許可を取っていないにもかかわらず金銭を受け取り宿泊をさせたということで、保健所から指導が入った。役場も関係して公的に受け入れをおこなったわけなので、国の指導に従ったまでと主張をするも、保健所からは、国といっても旅館業法や食品衛生法を所管する厚生労働省は当該プロジェクトには入っていないという回答で、結局認められなかったのである。

民泊の起こりと問題点1〜どのように民泊は始まったか〜

最近話題になっている「民泊」というキーワード。

これまであまり聞き覚えのなかったこの言葉も、今や、国会でも議論されているホットワードになっている。 しかしながら、実は旅行会社の教育旅行(修学旅行等)の担当者や、学校の先生の間では10年以上前からこの「民泊」という言葉は頻繁に使われており、それは、今のようなインバウンドの増加に伴うホテル不足を補うためのものでも、インターネットを活用したシェアリングエコノミーという考えからきたものでもない。

では、この「民泊」がどのように広まってきたのか、また、どのようにカタチを変えてきているのか、15年以上前から「民泊」に関わってきた一人として、現状の問題点とあわせて考えてみたい。

ある学校の先生からの一言

当時、修学旅行の営業をしていた私は、ある国立大学の附属中学校の先生の一言から「民泊」を知ることになる。それは、「うちの学校の生徒たちは教員や医者、弁護士といった、先生と呼ばれる家庭で育っていることが多い。それがすべての原因というわけではないが、勉強は良くできるのだが、一般常識が不足していたり、世間知らずな一面が見られる。ついては、もっと世間の厳しさや、職業観といったことを学ばせて、立派な大人になるための視野を広げることができるような、修学旅行や宿泊研修の企画はないかな?」

それまで、農村や漁村での民宿を活用して、農山漁村体験という形態はよくあり、この学校でも南伊豆の漁村で20軒ほどの民宿に分かれて宿泊をするという研修は行われていたのだが、さらに突っ込んだ内容の企画を望んでいるとのことだった。

そこで、出会ったのが、「民泊」というかたちの修学旅行だった。家業を持つ一般家庭にホームステイをし、家業や食事・家事の手伝いをし、ホストファミリー(お父さん・お母さん・おじい・おばあ)と寝食を共にするという形態である。

当時から海外でのホームステイはよくあったが、日本国内でのホームステイはほとんどなく、この「民泊」というかたちは非常に斬新だったのである。

今となっては修学旅行における民泊のメッカとして知られる沖縄の伊江島で、民泊の受け入れを開始したのが2003年、ちょうどそのタイミングだったのである。